【読者投稿】夜になるとすすり泣く声が聞こえる旅館

心霊

夜も更け、静寂が辺りを包む頃、出張でお世話になっている歴史ある温泉旅館の一室で、私は眠りについていました。しかし、夜中に何度か、些細な物音で目が覚めてしまったんです。古い木造の建物なので、廊下の軋みや、風の音などが、普段よりも気になったのかもしれません。

三度目に目を覚ましたのは、深夜の二時を回った頃でしょうか。その時、これまでとは異なる、何とも言えない気配を感じました。部屋の奥、ちょうど年代物の押し入れが設えられている辺りが、ひんやりと、まるで冷気が漂っているように感じられたんです。気のせいであれば良いのですが、なぜかその一点から、目を離すことができませんでした。

しばらくの間、布団の中で様子を窺っていましたが、やがて、微かな音が聞こえ始めました。「…ちゃぷ、…ちゃぷ」というか、水滴が落ちるような音ではあるのですが、もっと粘り気があり、どこか生々しいような、そんな不思議な音色でした。まさか雨漏りかと、天井を見上げてみましたが、そのような様子はありません。音は、やはりあの押し入れの方から聞こえてくるように思えました。

胸騒ぎが募り、落ち着かない気持ちになりながらも、意を決して布団からそっと抜け出し、音のする方へゆっくりと近づいてみました。押し入れの前に立つと、先ほど感じた冷たい空気は、さらに濃密になっているように感じられます。まるで、その一角だけ、異質な空間が広がっているかのようです。

息を潜め、わずかに震える手で、押し入れの襖に触れようとした、その瞬間でした。背後から、「…ふぅ…」という、まるで深い溜息のような、微かで、しかしはっきりと耳に届く音がしたんです。

全身が粟立ちました。咄嗟に振り返りましたが、そこには誰もいません。一人で宿泊しているので当然です。しかし、確かに、すぐそこで何かが存在したような、そんな感覚がありました。冷たい何かが肌を撫でるような気がし、心臓が激しく鼓動しました。足が竦み、その場から動けなくなってしまいました。

理性では、「気のせいだよな?」「疲れているんだろうな」と何度も言い聞かせようとしましたが、体の奥底から湧き上がる言いようのない恐怖は、それを容易く打ち消してしまいます。一刻も早くこの部屋から離れたい。そんな衝動に駆られ、私は半ば逃げるように部屋を飛び出し、廊下を駆け下りました。

深夜の静まり返ったロビーに、私の足音だけが響きます。夜勤の従業員の方を見つけ、息を切らしながら先ほどの出来事を話しましたが、その方は眠たげな表情で、「古い建物ですので、色々な音がするものですよ」と、穏やかに言いました。

しかし、私の体験は、それだけでは終わりませんでした。翌朝、疲労困憊した様子でチェックアウトの手続きをしていると、昨夜の出来事を耳にされたらしい女将さんが、青ざめたご様子で近づいてきました。「お客様、昨夜、何かございましたでしょうか…?」と、低い声でお尋ねになられました。

恐る恐る昨夜の体験を話しますと、女将さんは悲しそうな表情をされ、重い口を開かれました。「実はこちらのお部屋は、以前から少しばかり、良くない噂がありまして…」と。伺うと、その押し入れがあった場所で、昔、大変悲しい出来事があったとのこと。それ以来、夜になると、すすり泣くような声が聞こえたり、理由もなく寒くなったりすることがあるのだそうです。昨夜私が体験した音や冷気も、きっとその出来事と関連があるのだろう、と言いました。

女将さんの話を聞いた瞬間、昨夜感じた得体の知れない恐怖が、現実味を帯びて押し寄せてきました。科学的な説明など、もはや考えることはできませんでした。あの時、確かにそこに、何か不思議な力が働いていたのだと感じざるを得ませんでした。

あれ以来、私は古い旅館に宿泊することが、少しばかり苦手になっています。あの夜の、肌を刺すような冷たい空気と、背後から聞こえた微かな溜息は、今でも鮮明に、私の記憶に残っています。

オカルト研究室室長の考察

心霊が出る旅館というのはやはりありますよね。通常時では使わないようにしていても繁忙期などになるとそういった心霊現象が発生する部屋でも使うようになりますので心霊体験をしたいのならば繁忙期に古い旅館を利用してみるのもいいかもしれませんよ。
今回投稿してくれた心霊体験はすすり泣く声が聞こえたり、寒気がするといったものだけでそれ以上の危害を加えるようなものではなかったので地縛霊的なものかと思いますので、こちらから何もしなければそれ以上のことにはならないかと思います。むしろ可愛そうだとか同情してしまうと憑いてきてしまったりすることもありえるので注意しましょう。

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