忘れもしない、私がまだ30代後半の頃、友人たちと肝試しに行った時のことです。場所は、地元では有名な廃墟となった病院。噂では、かつてそこで多くの患者が亡くなり、夜な夜な幽霊が出るとされていました。好奇心旺盛な私たちは、懐中電灯を手に、震える足を踏み入れました。
病院内は想像以上に荒れており、床にはガラスの破片が散らばり、壁には落書きが生々しく残っていました。じめじめとした空気と、どこからか聞こえてくるような気がするかすかな音に、私たちの緊張は高まっていきました。
奥へと進むにつれて、異様な気配を感じ始めました。背後から誰かに見られているような、冷たい視線を感じるのです。振り返っても誰もいないのですが、その感覚は拭い去れません。友人たちも同じように感じていたようで、会話も途切れがちになっていました。
そして、旧手術室と思われる部屋に入った時でした。ひんやりとした空気が一段と強まり、部屋の隅に置かれた古びた手術台が、不気味な存在感を放っていました。その時、友人の一人が突然、「うっ…」と苦しそうな声を上げたのです。
私たちは慌てて駆け寄りましたが、彼は顔面蒼白で、何も言えません。ただ、一点を凝視して震えているのです。私たちが彼の視線の先を追うと、そこには何もありませんでした。しかし、次の瞬間、部屋全体に重苦しい圧迫感のようなものが押し寄せてきたのです。まるで、見えない何かに取り囲まれたような、息苦しい感覚。
恐怖のあまり、私たちは我先にと手術室を飛び出し、病院の出口へと駆け出しました。振り返ると、廃墟の窓から、ぼんやりとした白い光が一瞬見えたような気がしました。
その後、体調を崩した友人もいましたが、幸いなことに事なきを得ました。しかし、あの時感じた言いようのない恐怖と、手術室での異様な感覚は、今でも鮮明に蘇ります。あれは一体何だったのか、今もって理解できません。ただ、あの廃病院には、間違いなく何かいると感じています。二度とあのような経験はしたくありません。
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