キャットインザハット

AIが生んだ新しい都市伝説「キャット・イン・ザ・ハット」騒動を検証する

絵本やアニメでおなじみの、赤と白の縞模様の帽子をかぶった陽気な猫のキャラクター――そんな親しみやすい存在が、2026年8月、突如としてイギリスとアイルランドの夜の街を恐怖に陥れることになった。しかもその正体は、実在する人物でも着ぐるみでもなく、AIが生成した完全な虚像だったという。今回はこの「キャット・イン・ザ・ハット」騒動について紹介したい。

きっかけは、一本の不気味なダンス動画

騒動の発端は、2026年6月下旬にさかのぼる。2003年に公開された実写映画版『キャット・イン・ザ・ハット』で、主演俳優が踊るシーンの映像に、不穏なサウンドトラックを重ねて投稿した動画がTikTok上で拡散したのが始まりだった。この動画はわずか1週間で440万回以上再生され、多くの人の記憶に強く刻み込まれることになる。動画が削除された後も、映画で実際に使われた着ぐるみ衣装がオークションに出品されたことが話題となり、人々の恐怖心をさらに煽る結果となった。

AI技術が生んだ「誰でも作れる怪物」

ここから騒動は新たな局面を迎える。AI技術を使い、見慣れた街並みの映像や写真に、あの不気味な猫のキャラクターを合成した動画が次々と登場するようになったのだ。アイルランドのリムリック州やウェックスフォード州を中心に、「深夜の路上でこの猫を目撃した」という設定の動画が拡散し、その後イギリス各地にも波及していった。「助けて、どうすればいい」というキャプション付きの動画は、わずか3週間で1500万回もの再生数を記録したという。中には脅迫めいたメッセージや、防犯カメラ映像を装ったものまで登場し、実際にある10代の少女が深夜にこうした動画を目にして本気で怖くなり、家族に迎えを頼んだという出来事も伝えられている。

警察が異例の「フェイク宣言」

あまりの拡散ぶりに、現地の警察までもが対応に追われることになった。ウェックスフォード州警察は、これらの映像について「見慣れた場所の写真や動画に、AIプロンプトを使ってキャラクターを合成しただけのものだ」と公式に説明し、実際の目撃情報ではないことを明言した。別の地域の警察も、ユーモアを交えながら、これがAIによって作られたフェイク映像であることを周知する声明を出している。

2016年「殺人ピエロ」騒動との共通点

この現象は、2016年に世界各地で発生した、不気味なピエロの仮装をした人物が目撃されたと騒がれた「キラークラウン」騒動や、2018年に拡散した「モモチャレンジ」といった過去のインターネットパニックとの類似性が指摘されている。ただし、今回が過去の騒動と決定的に異なるのは、実際に仮装した人物や、手の込んだ加工技術がなくとも、誰もが数クリックでそれらしい映像を作り出せてしまう点だ。AI技術の進歩によって、都市伝説を生み出す敷居そのものが、大きく下がってしまったと言えるだろう。

なぜこれほど「自分ごと」に感じられたのか

今回の騒動が特に効果的だった理由の一つに、映像の「舞台設定」がある。遠く離れた見知らぬ場所ではなく、自分の住む街並みや、見慣れた通りにあの不気味なキャラクターを合成することで、視聴者に「これはもしかして自分の近所の話かもしれない」という強い実感を抱かせる作りになっていたのだ。かわいらしいはずのキャラクターが、見慣れた日常の風景に唐突に紛れ込むという違和感こそが、この現象を単なる作り物以上の不気味さに押し上げていたのかもしれない。

オカルト研究室室長の考察

かつての都市伝説は、口伝えや不鮮明な写真、伝聞といった不確かな情報の積み重ねによって生まれていった。しかし今回のキャット・イン・ザ・ハット騒動は、誰もが手軽にAIで「証拠映像」まで作り出せてしまう時代の到来を、はっきりと示している。虚実の境界がますます曖昧になっていく中で、目にした映像を鵜呑みにせず、まず一呼吸置いて考えるという習慣が、これからますます大切になっていくのかもしれない。

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