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牡丹灯籠

日本三大怪談「牡丹灯籠」を読み解く―「お札はがし」に見る人間の欲の恐ろしさ

「カランコロン、カランコロン」――お盆の夜、下駄の音を響かせながら、牡丹の絵が描かれた灯籠を提げた女がやってくる。日本三大怪談の一つに数えられる『牡丹灯籠』は、幽霊と知らずに恋に落ちてしまった男の悲劇として、長く語り継がれてきた物語だ。今回はこの牡丹灯籠の物語と、実は中国から渡ってきたというその成立の歴史について紹介したい。

幽霊と知らずに始まった恋

物語の主人公は、内気な浪人・萩原新三郎。ある日出会った美しい娘・お露に恋をするが、実は彼女はすでにこの世を去った幽霊だった。お盆の夜、下駄の音とともに、お露は女中のお米と連れ立って、牡丹の絵が描かれた灯籠を提げて新三郎のもとを訪れるようになる。新三郎はやがてお露の正体が幽霊であると知るが、時すでに遅く、彼女に取り憑かれるように衰弱していってしまう。

「お札はがし」に見る、人間の欲の恐ろしさ

物語の中でも特に印象深いのが、「お札はがし」と呼ばれる場面だ。新三郎の家には、お露の侵入を防ぐための御札が家中に貼られており、これがある限りお露は家の中に入ることができない。困ったお露は、新三郎の隣人である貧しい浪人夫婦・伴蔵とお峰に目をつけ、御札を剥がしてくれれば金を与えると持ちかける。金への執着から抗いきれなかった二人は、ついに深夜、新三郎の家に忍び込み、壁や柱、そして仏間の障子に至るまで、御札を一枚残らず剥がしてしまう。結果として結界は破られ、お露は座敷に入り込むことができるようになり、新三郎は凄惨な最期を迎えることになる。幽霊そのものよりも、目先の金に目がくらんだ生身の人間の裏切りこそが、悲劇を引き起こしたとも言える構成になっている。

実は起源は中国の怪談だった

この牡丹灯籠、実は日本オリジナルの物語ではない。そのルーツをたどっていくと、中国・明代の文人瞿佑(くゆう)が著した怪談小説集『剪灯新話(せんとうしんわ)』に収録されている「牡丹燈記」という物語に行き着く。中国版では喬生という男性が、麗卿という名の幽霊の女性と関係を持つという筋書きになっており、日本版の骨格はすでにこの時点で出来上がっていたことがわかる。

江戸から明治へ、日本で磨かれた物語

この中国の物語が日本に伝わったのは江戸時代のことだ。仮名草子作家の浅井了意が『剪灯新話』を翻案し、『御伽婢子(おとぎぼうこ)』という作品にまとめ上げた。ここで舞台は京都に置き換えられ、登場人物の名も「荻原新之丞」として日本風にアレンジされている。この系譜は他の作品にも影響を与えており、上田秋成の『雨月物語』に収録された「吉備津の釜」も、同じ「牡丹燈記」を下敷きにした作品の一つとされている。そして幕末から明治にかけて活躍した落語家・三遊亭圓朝が、これらの先行作品を踏まえて創作したのが、今日よく知られる落語『牡丹灯籠』というわけだ。

日本三大怪談・三大幽霊の一角として

牡丹灯籠は、『四谷怪談』『番町皿屋敷』と並んで「日本三大怪談」に数えられ、それぞれの主人公である「お露」「お岩」「お菊」は「日本三大幽霊」とも呼ばれている。三作に共通するのは、いずれも男性への強い情念を抱えた女性の霊が登場するという点だ。中国から渡ってきた一つの物語が、時代や作者を超えて磨き上げられ、日本を代表する怪談の型として定着していった過程は、物語というものの息の長さを物語っている。

オカルト研究室室長の考察

牡丹灯籠が興味深いのは、恐ろしいのは幽霊そのものだけではなく、目先の利益のために大切な人を裏切ってしまう人間の弱さもまた、この物語の核心を成している点だ。異国の怪談が海を渡り、幾人もの手によって語り直され、磨き上げられてきたこの物語は、これからも形を変えながら語り継がれていくのだろう。

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