
旧吹上トンネルの怪異と実像|青梅の三世代トンネルと、住民が語る「幽霊は見ていない」
東京都青梅市の成木街道に、同じ峠を三世代のトンネルが貫いている場所がある。明治に掘られたレンガのトンネル、昭和のトンネル、平成の新しいトンネルだ。このうち古い側は「おばけトンネル」と呼ばれ、白い着物の女や幼子の泣き声が語られてきた。それが旧吹上トンネルである。ところが、近隣で暮らす人々は「幽霊を見た人は一人もいない」と話す。噂と史実のあいだにあるものを、確認できる事実から整理してみたい。なお、ここは住民の生活の場である。肝試しや訪問を勧める記事ではない。
同じ峠に重なる三本のトンネル
吹上峠には、トンネルが3本ある。もっとも古い「旧旧トンネル」は明治36〜37年(1903〜04年)の開通とされ、延長は約112メートルのレンガ造り。東京府の道路トンネル第一号とされる。その下に昭和のトンネル(旧吹上トンネル、昭和トンネル)があり、完成は昭和33年(1958年)とする青梅市の資料と、昭和28年(1953年)とする資料がある。延長も約241〜248メートルと資料で差がある。さらに平成5年(1993年)に、延長604メートルの新トンネルが開通した。旧旧トンネルは2009年に安全管理のため封鎖され、昭和トンネルは車止めがあり、歩行者と自転車のみ通れるとされる。呼び名は資料によって揺れており、「吹上トンネル」が3本の総称や昭和トンネルを指す場合もある。
石灰を運んだ峠の歴史
この道が通る成木は、古くから石灰の産地として知られる。江戸城の普請のために石灰を供出した話は、1606年のこととして紹介されることもある。峠の頂上の切通しは、文政11年(1828年)に北小曽木村の名主が開削したとされ、石灰を運ぶ牛馬を通すためだった。その後、自動車交通の時代を迎えて、トンネルが造られていく。つまりこの場所は、幽霊の舞台である前に、地域の暮らしを支えた物流の道なのである。
語られている怪異
怪異の話は、おもにインターネットや雑誌の記事で語られている。もっとも多いのは、白い和服姿の女の話だ。ほかにも、幼い子の泣き声が聞こえる、複数の霊に追われた、といった内容が紹介されている。ブログには、旧旧トンネルで女性の不明瞭な声を聞いたという訪問者の話が載るが、書き手自身は水滴の反響ではないかと考えている。SNSでは、白い人影を見た、エンジンが止まった、という投稿があるとされる。一方で、何も見なかったという声もある。体験談の多くは匿名で、検証されたものではない。
「茶屋の殺人」という噂の出どころ
噂の核には、昔この近くで起きた殺人事件があると語られる。居酒屋の強盗殺人だとする話や、峠の茶屋で売り子が殺されたという話があり、時期も「昭和30年代」「終戦直後」と食い違う。週刊女性PRIMEが取材した関係者は、事件はあったが建物の中で起きたことで、トンネルとは無関係だと話している。別のブログは、当時の新聞を探したものの関連記事は見つからなかったと書く。こうした経緯から、「トンネル内での殺人」という噂には、裏づけがないといえる。また、実在の凶悪事件の犯人にからめた噂もあるが、事実ではないと専門家が明言している。
住民の声と、噂が広まった時期
同じ週刊女性PRIMEの取材では、60代の男性が「古いトンネルは子どもの遊び場だったが、怖い話はなかった」と話し、70代の女性は「地元で幽霊を見た人は一人もいない」と述べたという。若者が来るようになったのは、取材時点の約20年前からだというから、噂が広まったのは2000年前後以降と考えられる。2003年ごろの個人サイトにも、すでに殺人の噂が書かれている。また、白い着物の噂は、昔テレビのロケで白い着物の人形を吊るしたことが一人歩きした可能性がある、とライターは推測している。ただし、これはあくまで推測である。
怪談研究家の見方
怪談研究家の吉田悠軌氏は、同記事で、心霊スポットと呼ばれる場所の多くは、もともと何も起きていない場所だと述べている。そのうえで、行くこと自体は否定せず、「周囲の人に迷惑をかけないことが大前提」だとしている。迷惑行為は年々増えているという。
暮らしの場に押し寄せる訪問者
旧旧トンネルの周辺で土地を借りている70代の男性は、ゲートの鍵を壊され、有刺鉄線を切られて侵入されると話す。建てた地蔵を壊されたり、ごみや焚き火の跡を残されたりした被害もあるという。旧旧トンネルの南側は私有地で、立入禁止の掲示がある。昭和トンネルも、地元の人が使う生活道路だ。近所の人が通報しても、番組を見た若者がまた訪れる、という悪循環が指摘されている。
オカルト研究室室長の考察
旧吹上トンネルは、怪談としては正体がつかみにくい。幽霊の目撃談はあるが、裏づけのある事件は確認できず、住民は「見たことがない」と言う。それでも噂が消えないのは、明治のレンガの壁と、薄暗い坂道が、人の想像を呼び込む形をしているからだろう。ただ、この場所を支えてきたのは、石灰を運んだ人々と、今もここで暮らす人々だ。トンネルの怖さを語るなら、まずその暮らしへの敬意を忘れたくない。現地は地域の方々の生活の場であり、肝試しの対象にしないでほしい。
都市伝説や妖怪、心霊現象、未確認生物、歴史に残る不可思議な出来事を探究するオカルト愛好家。噂をそのまま紹介するだけでなく、伝承が生まれた背景や史実、科学的な説などを調べ、さまざまな角度から考察しています。信じる・信じないだけでは終わらない、オカルトの奥深さと面白さをお届けします。









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