岩手県大槌町

風の電話 ― 東日本大震災を経て多くの人の心の拠り所となった実話

岩手県大槌町の高台に、電話線がどこにも繋がっていない、一台の白い電話ボックスがある。「風の電話」と呼ばれるこの場所には、大切な人を亡くした人々が今も訪れ、受話器を手に、この世にはいないはずの相手へと語りかけている。今回はこの風の電話にまつわる、実話を紹介したい。

いとことの別れから生まれた電話ボックス

風の電話が設置されたのは2011年の震災より前、2010年のことだった。太平洋を望む景色を気に入りこの地に移住した庭師の佐々木格氏は、この年、大切な従兄を亡くす。もう一度だけ話をしたいという思いから、佐々木氏はパチンコ店から譲り受けた白い電話ボックスを、自宅の庭の片隅に設置した。ボックスの中には、亡き従兄が生前に書いた詩が置かれているという。

どこにも繋がっていない電話線

この電話が特別なのは、実際にはどこにも電話線が繋がっていないという点にある。受話器を上げても、その声は決して相手に届くことはない。しかし佐々木氏は「繋がっていないからこそ、想いは繋がるのかもしれない」と語っている。誰かに届くはずのない言葉だからこそ、人は心の内をありのままに吐露できるのかもしれない。

東日本大震災を機に、多くの人へ開かれた場所

2011年3月11日、佐々木氏は自宅から、津波が浪板海岸を襲う様子を目の当たりにした。多くの命が奪われたこの震災の後、佐々木氏は自宅の庭を「メモリアルガーデン」として一般に開放する。家族や大切な人を突然失った被災者たちが、この電話を通じて、風に想いを乗せて伝えられるようにという願いからだった。2014年7月の時点で、来訪者はすでに1万人を超えていたと記録されている。

絵本、NHKスペシャル、そして映画化

風の電話は、その後も多くの形でその存在を伝えられてきた。2014年には絵本『かぜのでんわ』が出版され、同年にはこの物語をテーマにしたCDも制作されている。2016年にはNHKスペシャルで取り上げられ、2020年には諏訪敦彦監督、モトーラ世理奈主演により劇映画化されるなど、震災の記憶と向き合う象徴的な場所として、全国、そして海外にもその存在が知られるようになった。

オカルト研究室室長の考察

幽霊が出るわけでも、不思議な現象が起きるわけでもない。それでも風の電話が多くの人の心を動かし続けているのは、繋がっていない電話線の向こうに、私たちが本当に伝えたい相手の存在を、それぞれの心の中で確かに感じ取っているからなのだろう。大切な人に伝えられなかった言葉があるなら、いつかこの電話ボックスを訪れて、風にその想いを託してみてほしい。

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