
貞子のモデルは実在した?『リング』と千里眼事件の関係
「見ると7日後に死ぬ」という呪いのビデオテープ――日本のホラー映画史に残る名作『リング』に登場する貞子は、今や世界的にも知られる存在だ。実はこの貞子というキャラクター、以前このコーナーで紹介した明治時代の実在の事件『千里眼事件』から着想を得て生まれたことをご存じだろうか。今回はこの『リング』と、明治の「千里眼事件」との知られざる関係について紹介したい。
きっかけは一冊の伝記だった
『リング』の原作者・鈴木光司は、図書館で偶然手に取った『超心理学者 福来友吉の生涯』という一冊の本をきっかけに、この物語の着想を得たとされる。福来友吉は、明治時代に東京帝国大学で超能力の公開実験を主導し、学術界を巻き込む大論争「千里眼事件」の中心人物だった人物だ。鈴木は1991年、角川書店からこの千里眼事件をベースにした小説『リング』を発表する。
貞子の母・志津子のモデルは御船千鶴子
作中で貞子の母として登場する山村志津子は、千里眼能力を持つ女性として描かれている。このキャラクターのモデルとされているのが、透視能力者として世間を騒がせた実在の人物、御船千鶴子だ。超能力を持つ女性でありながらマスメディアから激しい批判にさらされ、悲劇的な結末を迎えるという筋書きは、両者に共通している。作中の志津子は海に身を投げるという設定で描かれているが、実際の御船千鶴子もまた、厳しい批判の末に短い生涯を自ら閉じている。
「貞子」という名前の由来
主人公である貞子の名前もまた、千里眼事件に由来しているとされる。福来友吉のもとで念写実験に参加していた実在の人物・高橋貞子から、その名前が取られたのだという。もっとも、実在の高橋貞子と、超能力を持つ女性という属性以外の人物像や運命は、鈴木の創作によるまったく異なるものだ。興味深いことに、作中で貞子に危害を加える医師の名は「長尾城太郎」とされており、これも千里眼事件で念写実験に挑んだもう一人の実在人物、長尾郁子の姓に通じるものがあるとの指摘もある。
実在の事件が生んだ、まったく別の物語
もちろん、『リング』はあくまでフィクションであり、呪いのビデオテープや、貞子が古井戸で命を奪われるという筋書きは、鈴木の完全な創作だ。作中では、強い感情を伴う出来事の記憶が水を媒介として周囲の物体に記録されるという「ストーンテープ理論」という実在の学説も引用されており、超心理学的な理論とオカルト的な物語が巧みに織り交ぜられている。実在の人物の名前とエピソードの一部を借りながらも、そこから生まれた物語はまったく独立した、貞子という新たな怪異だったといえる。
オカルト研究室室長の考察
実在の悲しい事件が、時を経て日本を代表するホラー映画の金字塔へと形を変えていったという事実は、物語というものの不思議な力を感じさせる。もっとも、貞子という強烈なキャラクターの陰に、御船千鶴子という一人の女性の悲劇が横たわっていたことを思うと、単なる怖い話として消費するだけでなく、その背景にも静かに思いを馳せてみたくなる。









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