
三億円事件|昭和最大の未解決事件、犯人は今も謎のまま
1968年12月、東京都府中市の路上で、わずか数分の間に2億9430万円という巨額の現金が白昼堂々奪われた。犯人は一人も負傷させず、警察官延べ17万人を動員する捜査網をすり抜け、1975年に時効が成立するまで正体を明らかにしなかった。日本犯罪史上最大級の未解決事件、三億円事件を振り返る。
「爆弾が仕掛けられている」という芝居
事件が起きたのは1968年12月10日午前9時過ぎ。東芝府中工場の従業員約4,500人分のボーナス資金を積んだ現金輸送車が、工場への到着を目前にしていた。そこへ白バイに乗った警官風の男が現れ、「支店長の自宅が爆破された。この車にも爆弾が仕掛けられているかもしれない」と告げる。車体の下から発煙筒で白煙を上げさせ、「ダイナマイトがあった! 早く逃げろ!」と叫んで行員たちを車外に避難させると、男は自らその現金輸送車に乗り込み、そのまま走り去った。負傷者は一人も出なかった。
17万人を動員した捜査と「世紀の誤報」
警視庁は日本の犯罪史上最大規模とされる捜査網を敷き、延べ約17万人の警察官を動員、容疑者リストは11万人、指紋照合は600万枚に及んだという。約78万枚のモンタージュ写真が全国に配布されたが、犯人の特定には至らなかった。現場には150点以上の遺留品が残されていたが、鑑識作業が終わる前に捜査員が犯人の落とした帽子を試着してしまったとも伝えられ、初動対応の不備が指摘されている。1969年には新聞が重要参考人として地元の青年を実名でスクープしたが、犯行時刻に別の場所で入社試験を受けていたアリバイが確認され、翌日には釈放されるという誤認騒動も起きている。1975年12月、公訴時効が成立し、事件は完全な迷宮入りとなった。
捜査線上に浮かんだ「少年」をめぐる謎
事件発生から5日後、国分寺市に住む19歳の少年が服毒自殺した。父親は現職の白バイ隊員だったとされる。捜査を担当した刑事の一人は早い段階でこの少年を「無関係」と判断したが、後年「実はこの少年こそが真犯人だったのではないか」と信じる関係者がいたことも語られている。作家の松本清張は1975年、この少年を題材にした推理小説を発表したが、実在する関係者への配慮から、年齢や住所など細部をあえて変えて描いている。ただし、少年の死と大金の間に物証上のつながりは確認されておらず、これはあくまで推測の域を出ない一つの説にすぎない。
ネット発の「告白小説」という新たな都市伝説
近年ではネット小説投稿サイトに「三億円事件を計画・実行したのは私です」と名乗る告白形式の小説が投稿され、警察関係者の間でも話題になったと報じられた。だが識者の見立てでは、これは純然たる創作とされており、実際の犯人による手記ではない。半世紀以上を経た今も、この事件が新しい形の都市伝説を生み続けていることの表れだろう。
今も残る「誰が犯人か」という問い
元公安関係者が多摩地域の警備の手薄さを計算した複数犯による計画的犯行だったと主張する一方、漫画家など別の立場からは、周到な計画ではなく偶然の要素が重なった単独犯行だったとする見方も示されている。警視庁内部でも、複数犯説と単独犯説のどちらを軸に捜査すべきか意見が割れたことが、迷宮入りの一因になったとも言われる。公安関係者の計画的犯行説、暴力団関与説など、様々な見方がこれまで語られてきたが、いずれも決定的な証拠には至っていない。時効が成立した今、特定の個人を実名で犯人と決めつける行為は、たとえ本人が亡くなっていたとしても、遺族への配慮を欠く行為になりうる。この事件を語る際には、「〜という説がある」という距離感を保つことが欠かせない。
創作のモチーフとなり続ける事件
死傷者を出さない鮮烈な手口と、巨額の金が一瞬で消えたという鮮やかさから、三億円事件は「昭和最大のミステリー」として長く記憶され、どこか愉快犯的な存在として語られてきた側面もある。松本清張の小説をはじめ、以後も数々のドラマや漫画の題材となり、テレビの検証番組でも繰り返し取り上げられてきた。もちろん実際には巨額の現金が奪われた重大な強盗事件であり、エンターテインメントとして消費するだけでなく、当時の社会に与えた衝撃の大きさも踏まえておきたい。
オカルト研究室室長の考察
死傷者を一人も出さず、綿密とも偶然とも言える手口で巨額の金を奪い、国家の捜査網を完全にかわしきった三億円事件は、昭和という時代が生んだ最大の謎の一つだ。真犯人がどこかで静かに生涯を終えたのか、それとも今も生きているのか――その答えを知る者は、犯人自身以外には誰もいない。
都市伝説や妖怪、心霊現象、未確認生物、歴史に残る不可思議な出来事を探究するオカルト愛好家。噂をそのまま紹介するだけでなく、伝承が生まれた背景や史実、科学的な説などを調べ、さまざまな角度から考察しています。信じる・信じないだけでは終わらない、オカルトの奥深さと面白さをお届けします。









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