
ジャージーデビル|300年語り継がれるアメリカ最恐UMAの正体
馬のような長い顔に、コウモリのような翼、山羊の角、蹄のある脚――アメリカ東部ニュージャージー州の深い森「パインバレンズ」に棲むと伝えられるジャージーデビルは、300年近く語り継がれてきたアメリカ屈指の未確認生物だ。その正体をたどると、単なる怪物伝説ではない、人間同士の対立の歴史が見えてくる。
「リーズ夫人の13番目の子」という誕生伝説
最も広く知られる起源譚は、1735年、リーズポイントに住む「リーズ夫人」が13人目の子を妊娠した際、「もう悪魔になってしまえ」と口にしたという話だ。生まれた子は普通の姿だったが、まもなく翼と尾、蹄が生え、怪物の姿へと変貌し、暖炉の煙突から飛び去ってパインバレンズの森に消えたと伝えられる。もっとも、この出産劇そのものを裏付ける出生記録や教会記録は見つかっていない。
実在した「リーズ家」と宗教対立の歴史
興味深いのは、「リーズ家」自体は実在した一族だという点だ。測量士で出版人のダニエル・リーズは17世紀末、ニュージャージー初の暦を刊行したが、占星術的な図像を載せたためクエーカー教徒の集会から激しく非難され、「悪魔のために働く者」とまで書かれた小冊子を出された。歴史家ブライアン・リーガルは、この伝説が単発の出産事件ではなく、植民地時代の宗教・政治対立の中でリーズ家に貼られた「悪魔の一族」というレッテルから生まれたものだと論じている。
1909年、1週間続いた目撃パニック
伝説が全米的な騒動に発展したのが1909年1月だ。ウッドベリーの男性が発光する目と白い霧をまとった生物を目撃したのを皮切りに、警官が銃を発射しても効かなかった、消防士が消火ホースを向けたといった証言が各地で相次ぎ、複数の学校が休校、懸賞金まで懸けられた。だがこの騒動には種明かしがある。1月24日、フィラデルフィアの見世物小屋が「捕獲した悪魔」として展示したのは、宣伝屋が購入したカンガルーに人工の翼と爪を接着しただけの代物で、約20年後に仕掛け人自身がヤラセだったと告白している。
当時の証言は実に具体的だ。ブリストルでは郵便局長が「翼のある生物」に拳銃を発射するも全く効果がなかったと語り、別の町では路面電車の軌道を横切る「首の長い、翼を持つカンガルーのような生物」が目撃されたと報じられた。報道はペンシルベニア州やデラウェア州にまで広がり、一週間足らずでニュージャージー周辺一帯を震撼させる騒動になったという。
正体は渡り鳥だったという説
科学的に有力視されているのは、本来この地域にいないはずの大型の渡り鳥サンドヒルクレーンを、夜間に見誤ったという説だ。体格や特徴的な鳴き声がジャージーデビルの伝承と重なる上、地元住民には見慣れない姿であったため、怪物と誤認されやすかったと考えられている。研究者はこの騒動を「地域の伝説が引き起こした集団ヒステリーの典型例」と評しており、当時の新聞各社が競って誇張した目撃談を載せたことも騒動拡大の一因とされている。
「州の公式悪魔」は実は都市伝説だった
ネット上では「1939年にニュージャージー州法で“公式の州の悪魔”に認定された」という話が広く流布しているが、ニュージャージー州立図書館の調査によれば、これは誤解だ。1939年の州刊行物にあった「事実上、州の悪魔の称号はリーズデビルのものだ」という比喩的な一文が、後年のメディアによって「法的な公式認定」と誤って広められ、都市伝説の中の都市伝説として定着してしまったという。
今も息づくローカルヒーロー
現在、NHLの人気チーム「ニュージャージー・デビルズ」はこの伝説にちなんで名づけられたもので、地元ではTシャツや土産品、絵葉書のモチーフとしても親しまれている。近年でも、2015年にゴルフ場付近で翼を広げて飛ぶ生物を撮影したという写真がSNSで話題になるなど、話題が完全に絶えることはない。死者が出たという確かな記録は一切なく、むしろ地域のアイデンティティを支える存在として愛されてきた点が、多くのUMA伝説とは一線を画している。
オカルト研究室室長の考察
ジャージーデビルの面白さは、怪物そのものより、それを取り巻いた人間の営み――宗教対立によるレッテル貼り、新聞社による煽動、見世物小屋のヤラセ、そして都市伝説についての都市伝説まで生まれてしまった入れ子構造にある。300年近くパインバレンズの森に棲み続けているのは、もしかすると人間の想像力そのものなのかもしれない。
都市伝説や妖怪、心霊現象、未確認生物、歴史に残る不可思議な出来事を探究するオカルト愛好家。噂をそのまま紹介するだけでなく、伝承が生まれた背景や史実、科学的な説などを調べ、さまざまな角度から考察しています。信じる・信じないだけでは終わらない、オカルトの奥深さと面白さをお届けします。





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