
トイレの花子さん ― 学校の怪談の原点、1948年岩手から全国区へ
学校の校舎、3階のトイレ。3番目の個室を3回ノックして「花子さんいらっしゃいますか」と尋ねると、中から「はい」というかすかな声が返ってくる——。日本中の子どもたちが一度は耳にしたことがあるであろう「トイレの花子さん」は、数ある学校の怪談の中でも、まさに原点ともいえる存在だ。今回はこの伝説のルーツと広がりを辿ってみたい。
1948年、岩手で語られた「三番目の花子さん」
花子さんのルーツは、戦後間もない1948年頃にまで遡るとされる。岩手県のある小学校では、「体育館のトイレの奥から3番目の個室に入ると、『三番目の花子さん』という声とともに便器から白い手が伸びてくる」という怪異が噂されていたという。現在よく知られる、おかっぱ頭に白いシャツ、赤い吊りスカートという花子さんの姿は、座敷童子の伝統的な赤い衣装のイメージや、後年の国民的アニメ作品の影響を受けて形成されていったと考えられている。
「花子さんいらっしゃいますか」― 定番の作法
もっとも広く知られている呼び出し方は、「校舎3階のトイレで、3番目の扉を3回ノックし『花子さんいらっしゃいますか』と尋ねる」というものだ。すると個室の中から、か細い声で「はい」という返事が聞こえてくるとされる。
地域ごとに異なる”花子さん一族”
花子さんは全国各地でさまざまな姿に変化してきた。山形県では、トイレを出る際に「花子さん」と呼びかけると返事があり、嫌な声で応じられると何かが起きるとされ、正体は「3つの頭を持つ体長3メートルの大トカゲ」だという説まで語られている。兵庫県では、複数の個室に花子さんの家族が暮らしており、親戚筋の幽霊一族が群馬県で年に一度集会を開くという壮大な設定も存在する。長野県では「ゆきこさん」、千葉県では「みーちゃん」と、呼び名そのものが変わる地域もある。
なぜ「花子さん」という名前なのか
名前の由来には諸説あるが、一つには、江戸時代から昭和初期にかけて盛んだった「厠神(かわやがみ)」信仰との関連が指摘されている。当時、赤や白の人形や花飾りをトイレに供える風習があり、戦後もその名残として造花を飾る習慣が残っていたことが、「花子」という名前と赤白を基調にした衣装のイメージにつながったのではないかというものだ。
民俗学者の一冊が生んだ全国的ブーム
花子さんが全国区の存在となったのは、1990年に民俗学者・常光徹氏が発表した著書『学校の怪談』がきっかけだとされる。以後、漫画やアニメ、映画といったポップカルチャーの題材として次々に取り上げられ、1995年には松竹、1998年には東映がそれぞれ映画化するなど、商業的な広がりとともに一大文化現象となっていった。
オカルト研究室室長の考察
一つの小さな学校の噂が、70年以上の時を経て地域ごとに枝分かれし、大トカゲになったり一族を成したりしながら、今も全国の学校で語り継がれている。花子さんの物語がここまで生き延びてきたのは、幽霊としての怖さだけでなく、子どもたちが自分たちの手で伝説を「育てていく」楽しさそのものにあるのかもしれない。









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