ケムストレイル

ケムトレイル陰謀論の正体 ― 飛行機雲は化学物質の散布なのか

晴れた空に、飛行機が長く尾を引くように残していく白い筋。これを単なる飛行機雲ではなく、政府や特定の組織が人々に知られないよう散布している化学物質だとする陰謀論が「ケムトレイル」だ。以前このコーナーで取り上げたHAARP地震兵器説と並び、世界中で根強く語られてきたこの陰謀論について、今回は検証してみたい。

空軍の「架空シナリオ」論文から始まった噂

ケムトレイル陰謀論のきっかけとなったのは、1996年にアメリカ空軍大学が発表した『Weather as a Force Multiplier: Owning the Weather in 2025(気象を戦力として ― 2025年、気象を所有する)』という報告書だとされている。これは2025年という近未来を想定した、あくまで仮想的なシナリオを描いた論文だったが、この内容が誤解され、1999年頃からインターネットの掲示板で「政府はすでに気象を操作する技術を実用化している」という噂として広まっていった。ラジオ司会者アート・ベルが自身の番組で取り上げたことも、この噂の拡散に拍車をかけたと言われている。

何が撒かれていると言われているのか

信奉者たちの主張によれば、飛行機が撒いているとされる物質にはバリウムやアルミニウム塩、ポリマー繊維などが含まれているという。目的についても、太陽光を制御して地球温暖化を防ぐため、気象そのものを操作するため、あるいは人々の心理操作や人口抑制、さらには生物・化学兵器の実験のためなど、実にさまざまな説が語られてきた。

科学が示す「ただの飛行機雲」という結論

もっとも、科学的な調査ではこうした主張は一貫して否定されている。アメリカの環境保護庁やNASA、連邦航空局などの公的機関は、いわゆるケムトレイルの正体は、航空機のエンジン排気に含まれる水蒸気が上空の低温で凝結してできる、ごく自然な飛行機雲であるとの見解を示している。上空の湿度が高い場合、この飛行機雲は数時間にわたって残留し、風によって広がっていくことがあり、これが「不自然に長く残る雲」という印象を与えているにすぎないという。2016年に行われた大気科学者77人を対象にした調査でも、76人(98.7パーセント)が、秘密裏の大規模散布計画を裏付ける証拠は存在しないと回答している。

なぜ今も信じられ続けるのか

科学的な反証が繰り返し示されているにもかかわらず、ケムトレイル陰謀論を信じる人は今も一定数存在する。2016年の大規模な調査では、回答者の9パーセントが「完全に真実」、19パーセントが「部分的に真実」と答えたという結果も出ている。日本でも2022年に日本ファクトチェックセンターがこの陰謀論を検証しており、その記事は2023年にもっとも読まれた記事の一つとなった。誰もが日常的に見上げる「空」という身近な題材だからこそ、この陰謀論は国境を越えて語り継がれ続けているのかもしれない。

オカルト研究室室長の考察

HAARPにせよケムトレイルにせよ、科学的な検証によって否定されてもなお語り継がれる陰謀論には、共通する何かがあるように思う。空という、誰の頭上にも等しく広がる存在に「見えない脅威」を見出してしまうのは、目に見えない不安を、目に見える形にして納得したいという、人間らしい心理の表れなのかもしれない。

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